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◆―お祖母さんの実家
 平成5年に放送されたNHK大河ドラマ「炎立つ」のメーンロケ地となった江刺は、奥州藤原氏の初代・藤原清衡とその父・経清が居館を構えていた地である。
 高橋克彦さんが平成11年に吉川英治文学賞を受賞した「火怨」の主人公・アテルイとも関連が深い江刺だが、克彦さんとの関わりは、それだけではない。克彦さんは小学校4、5年生の頃、何度か江刺市岩谷堂(現・奥州市江刺区岩屋堂)を訪れていたのである。それは江刺市前田町(奥州市江刺区)に高橋克彦さんのお祖母さん・マツノさんの実家・平家があったからだ。
 克彦さんは、東北本線・水沢駅からバスに乗り、当時、江刺市中町にあったバスセンターで降りて、そこから前田町まで歩いた。訪れるたびにバスセンター近くの食堂に寄り、大好きなソフトクリームを食べていたことは、江刺ではよく知られたエピソードである。

月光仮面(?)のまねをしている10歳頃の高橋さん
(昭和33年3月27日に江刺市前田町の平家で撮影)
食堂「まるや」のソフトクリーム
克彦少年はソフトクリームに目のない子どもだった
◆―文藝春秋の小学生全集
当時、平家には子供向けの本がたくさんあった。水沢にある緯度観測所(現・国立天文台水沢観測センター)の2代目所長・川崎俊一さんから平家におくられた文藝春秋発行の小学生全集をはじめ、戦時中、釜石製鉄所の嘱託医をしていた木村謹三さん(マツノさんの夫)が移していた家財にも子供向けの本があったという。
「これらの本を読みたくて、江刺に足を運んだのかも知れません」
 これはマツノさんの孫にあたる平芳治さん(前田町在住)のことばである。文藝春秋の小学生全集は、昭和初期に刊行されたもの。各巻の巻末には会員名簿が掲載されており、おそらくは会員だけが購入できる種類の書籍であったと思われる。挿絵も素晴らしく、中にはカラー刷りのものもある。

伯父の結婚式に出席したときのやんちゃな克彦少年(左下)

かつては子どもたちが駆け回った前田町の平家付近の路地
平芳治さん


克彦少年が読んだ文藝春秋刊の小学生全集
◆―吉川英治賞と克彦さん
「炎立つ」の前半部で主要な舞台を演じた江刺だが、克彦さんの少年期においても、何らかの役割を果たしていたのであろうか。平芳治さんのお父さんは、故平三郎さん。三郎さんは第1回吉川英治賞(昭和42年)において、学術研究分野での地道な業績を高く評価され、吉川英治文化賞を受賞している。このとき、文学賞を受賞したのは、推理小説の巨匠・松本清張であった。三郎さんは、水沢の緯度観測所に技師として勤務していたとき、緯度観測のための望遠鏡「視天頂儀」に張る1ミクロン以下のクモの糸を採取し、接眼レンズに目盛りとして張り付けるという高度の精密さが要求される重要な仕事に長年に渡ってたずさわっていた。この観測方法と技術は、当時世界中の天文台で採用され、天文学の研究・発展に大きく貢献している。
 吉川英治文化賞では、「雪博士」として世界的に知られ、エッセイストとしても有名な伯父の高橋喜平さんが、昭和52年に雪崩の実態調査と雪崩防止の研究で高い評価を受け、第11回吉川英治文化賞を受賞している。
 このように、高橋克彦さんは吉川英治文学賞と同文学新人賞の受賞者であり、一族では4度、吉川英治賞を受賞している。

蜘蛛の巣を採取する平三郎氏


現在の奥州市江刺区中町蔵町通り

高橋さんの色紙

旧江刺バスセンターと中町
[高橋家と平家に関係する系図]

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